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ISIDでは、会計基準の国際化、決算早期化、内部統制など、さまざまな課題を抱える経理業務関係者の方々のために、その課題解決の一助となるように、本メールマガジンを発行しております。

すでに監査法人やコンサルティング会社からも色々なメールマガジンが発行されておりますが、弊社のメールマガジンは、抽象的教科書的なものではなく、実務目線での情報提供を基本にします。どうぞお役立てください。

目次

コンサルタントの眼
〜 「分析と改善」の観点からKPIを眺める 〜

PDCAのマネジメントサイクルをまわすため、多くの企業ではKPI(主要業績管理指標)を設定し、計画の進捗状況をモニタリングされていると思います。
一方、KPIという用語がこれほど浸透しているのに、その定義や使い方の最適解を見い出せていない場合も多いのではないかと感じています。

2007年にイギリスのクランフィールド経営大学院が世界5ヶ国でおこなった調査によると、「KPIがはっきりと体系化されていない」日本企業の割合は55%にも上り、他国企業に比べてかなり異常な結果になっています。

KPIがはっきりと体系化されていない企業の割合

  • 日本 55%
  • 米国 20%強
  • 英国 20%弱
  • 中国 10%強
  • 豪州 10%未満

本稿ではPDCA(Forecast=予測もいれるとPDCFA)サイクルの中でも重要性の高い、「C=評価・分析」と「A=改善アクション」の観点から、KPIについて考えます。

まず大前提として、事業の特徴によって評価すべきポイントが異なるため、選択すべき適切なKPIも違ってきます。事業の特徴を分類する際は以下の点に着目するとよいでしょう。

事業の基本戦略の違い

<分類例>
  事業ライフサイクル(導入期、成長期、成熟期、衰退期)
  事業ポートフォリオ(花形、金のなる木、問題児、負け犬)
  競争地位(リーダー、チャレンジャー、ニッチャー、フォロワー)

 <評価ポイントの例>
  成長期の事業では規模の拡大が最優先だが、成熟期の事業ではキャッシュの回収が主眼。
  導入期の事業には財務的指標での管理は適さない

 <KPIの例>
  成長期:売上高成長率
  成熟期:営業キャッシュフロー

バリューチェーンの違い

 <分類例>
  販売(マスセールス型、個客リレーション型、・・・)
  生産(大量生産型、少量多品種生産型、受注生産型、・・・)
  アフター(売り切り型、リピートオーダー型、クロスセル型、・・・)

 <評価ポイントの例>
  大量生産型の事業では需要予測に基づく生産計画、受注生産型の事業では営業パイプラインと案件毎の進捗管理が重要

 <KPIの例>
  大量生産型:製品別需要予測、市場シェア率、生産能力
  受注生産型:受注確度、納期遵守率

では、事業毎に適切なKPIが選択されたとして、「分析と改善」の観点からどのようにKPIを使ったらよいか考えてみましょう。

KPIは、事業の財務的な結果を測る成果指標(KGI=KeyGoalIndicatorということもあります)と、成果につながる事業活動の状況を財務、非財務の両面から評価するプロセス指標に大別できます。
「分析と改善」の観点では、財務的な結果だけをいくら眺めても具体的なA=改善アクションは見えてこないため、見るべきものはプロセス指標ということになります。

見ているKPIが財務的な成果指標に偏っている場合、改善策がマネジメントの属人スキル(経験、勘、度胸)や、会議での声の大きさのみで決定され、誤った、あるいは効果の薄い打ち手になっている可能性があるので要注意です。

改善策を検討するための分析作業では、予実差異原因のコントロール可能性に着目することが有用です。以下の3分類で考えるとよいでしょう。

予実差異原因の分類

  1)コントロール不能な外部要因(為替、原材料価格など)
  2)コントロール可能な内部要因(生産効率、販管費率など)
  3)外部と内部の複合要因(受注率、販売単価、粗利率など)

1)の場合は差異原因の直接的な解消はできないため、予防的なリスクヘッジや 間接費削減などによるボトムラインのコントロールが打ち手となります。

2)に対しては業務改善や経費抑制、中長期的には生産設備の能力増強など、差異原因に対する直接的な打ち手を取ることができます。

3)の場合は更なる分析をおこない、差異の真因をつかまえた上で打ち手を考える必要があります。例えば受注率の低下が景況の悪化によるものか、顧客の認知度が低下しているのか、競合の大幅値引が原因か、自社の営業力低下によるものかによって、打ち手が異なってきます。

1)〜3)の中では3)が最も打ち手の判断が難しく、マネジメント個々人のスキル(ここでは肯定的な意味です)が発揮されるべきところでしょう。

なお、うまく整備されたKPI体系は分析と改善だけでなく、PDCFAの「F=予測」にも役立ちます。もちろん、指標のシミュレーションだけで完璧な将来予測をおこなうことは出来ませんが、自社の事業におけるリスクドライバーとパフォーマンスドライバーを構造的に可視化しておくことで、リスクの検知と予防的なアクション、差異発生時の改善アクションがとりやすくなります。

また、現場のマネージャーからボトムアップで積上げられる予測値は、様々なバイアスによって歪められているものです(調子が良いときは"隠し玉"を作り、悪い時は"気合い"で無理やり数字を作りこむなど)。経営トップ層に報告される数字が実態よりアグレッシブでもコンサバティブでも、そのまま鵜呑みにすると痛い目にあうことがあります。

構造化されたForecastModelにもとづき、経営トップ側(実際には経営企画などのヘッドクオーター部門が担当)でもある程度の見込値を内々に想定しておくことで、現場の積上げ値の"冷静な評価"と"違和感への気づき"から、早めの改善アクションにつなげることができるでしょう。

◇ 担当:藤原啓之(ISIDビジネスコンサルティング)

<関連情報>

中田雑感              公認会計士 中田清穂
〜 欧州における日本の会計基準の見方(経済産業省の資料から) 〜

こんにちは、公認会計士の中田です。

このコーナーでは毎回、経理・財務にかかわる最近のニュースや記事などから特に気になる話題をピックアップしていきます。
よくある、無味乾燥なトピックの紹介ではなく、私見も交えて取り上げていきますので、どうぞご期待ください。

欧州における日本の会計基準の見方(経済産業省の資料から)

今回は、11月26日に開催された経済産業省企業財務委員会に提出された、経済産業政策局企業会計室の欧州出張レポートを見ての雑感です。

経済産業省のWebサイトに、当日提出された資料が掲載されています。この中で今回取り上げるのは、資料5の「欧州出張報告」です。

この資料に欧州の関係者が語る日本の会計基準に関するコメントがあります。
「意見交換のポイント(詳細)」にある「2−1.英国(投資家)」の7〜8ページ目に記載されている内容です。

以下に一部を抜粋します。

8 IFRS と日本基準

  • 日本企業に投資する立場からすると、日本企業がIFRS に変更すべき理由はない。日本基準を変更するとしても、コアの部分は残してマイナーチェンジする程度で十分であろう。(運用機関)
  • 日本企業の評価をする際、大枠において日本基準とIFRS は近似しているので、大きな調整項目として、のれん(償却)と年金債務の部分を考慮する程度で足りる。(年金関係)

 <抜粋以上>

この意見を語った人たちからすると、日本企業がIFRSを適用する意味があまり感じられないということになります。
それは同時に、J-IFRSで財務報告をしたとしても大した影響を感じないと言えると思います。
つまり、「日本企業が日本基準だろうが、J-IFRSだろうが、どちらで財務諸表を作成しても、問題ない」という意見なのだと思います。

ということは、日本がIFRSを強制適用するかどうか、そして、J-IFRSを設定するかどうかなどは、もはや「海外投資家のため」という意味合いは相当程度低いということになります。
そうすると、日本におけるIFRSの強制適用やJ-IFRSの策定は、あくまでも日本が発言力を確保するための手段でしかないと思いました。

また、J-IFRSが海外の投資家に「限りなくIFRSに近い」と認めてもらえるのかという疑問についても、すでにコンバージェンスをしてきた現在の日本基準で大きな支障を感じていないということなので、J-IFRSが認められないわけがないのではないかと感じました。

ちなみに、11月26日に開催された企業財務委員会で提出された斎藤静樹東大名誉教授の発表資料「会計基準の国際化:現状と課題」(資料3)の「PART 5ついでのコメント」には共感できる項目が多くあります。

また、資料4の「会計基準をめぐる最近の動向」には、アメリカでは、非公開企業は、のれんを10年間以下で償却でき、減損も簡素化して適用することになったことや、欧州では、EUのIFRS財団への拠出について、来年以降について認めない可能性が出てきているなど、あまり日本では知られていない情報が掲載されているので、一見の価値があると思います。

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