監査法人への苦情
コンサルタントの眼
仮想通貨の会計処理及び開示について
2018年3月14日に企業会計基準委員会より、実務対応報告第38号「資金決 済法における仮想通貨の会計処理等に関する当面の取扱い」(以下、対応報 告という)が公表されました。昨年は億り人が何人も現れるなど「仮想通貨 バブル」とも呼べる現象が起きていましたが、今ではすっかりテレビでも報 道されず、旬の過ぎた感のある、仮想通貨の会計処理及び開示に関する当面 の取扱いが示されています。会計処理のポイントは以下のとおりです。
●仮想通貨交換業者及び仮想通貨利用者は、保有する仮想通貨について、活 発な市場が存在する場合、市場価格に基づく価額をもって当該仮想通貨の 貸借対照表価額とし、帳簿価額との差額は当期の損益として処理する。
●仮想通貨交換業者及び仮想通貨利用者は、保有する仮想通貨について、活 発な市場が存在しない場合、取得原価をもって貸借対照表価額とする。 期末における処分見込価額(ゼロ又は備忘価額を含む。)が取得原価を下 回る場合には、当該処分見込価額をもって貸借対照表価額とし、取得原価 と当該処分見込価額との差額は当期の損失として処理する。
●活発な市場が存在する場合とは、仮想通貨交換業者又は仮想通貨利用者の 保有する仮想通貨について、継続的に価格情報が提供される程度に仮想通 貨取引所又は仮想通貨販売所において十分な数量及び頻度で取引が行われ ている場合をいうものとする。
時価評価を基本として、市場価格がないものについては減損処理を実施する 会計処理は、有価証券に似ていますが、仮想通貨は金融商品でも棚卸資産で も無形資産でもなく、仮想通貨独自のものとして新たに会計処理を定めてい ると記載されています。市場価格がない仮想通貨は、有価証券のように被投 資会社の純資産から減損の要否を判定するのではなく、ゼロ又は備忘価額ま で減損処理する考え方も示されており、「裏付けのない資産」という実態を 表すように定められていると感じます。
さらに、注記事項も定められています。(重要性基準あり)
●仮想通貨交換業者又は仮想通貨利用者が期末日において保有する仮想通貨の貸借対照表価額の合計額
●仮想通貨交換業者が預託者から預かっている仮想通貨の貸借対照表価額の合計額
●仮想通貨交換業者又は仮想通貨利用者が期末日において保有する仮想通貨について、活発な市場が存在する仮想通貨と活発な市場が存在しない仮想通貨の別に、仮想通貨の種類ごとの保有数量及び貸借対照表価額
担当:大形 浩祐(ISID/コンサルタント)
中田雑感
監査法人への苦情
公認会計士 中田清穂
こんにちは、公認会計士の中田です。このコーナーでは毎回、経理・財務にかかわる最近のニュースや記事などから特に気になる話題をピックアップしていきます。よくある、無味乾燥なトピックの紹介ではなく、私見も交えて取り上げていきますので、どうぞご期待ください。
最近、監査法人への苦情を経理部門の方々から伺うことが多くなりました。 その主なものは以下のような項目です。
(1)監査担当者が変わるたびに同じ説明をしなければならない:監査法人内で 過去の経緯などの情報を共有して、クライアントに対して同じ 説明を何度もさせないようにしてほしい。
(2) 決算が始まる前に事前に相談した事項で、自社担当チームの筆頭サイナー たちと合意に達したにも関わらず 決算がほぼ終わった段階で監査法人内の審 査により、事前の合意を反故にされるケースが頻発している: 専門家である公認会計士の判断で達した合意が 頻繁に反故にされることにつ いては納得できない。せっかく決算前に資料を送ったのに、全く見ていないと 感じることもある。 「働き方改革」で決算時の残業や休出を減らそうとしているのに、監査法人の 対応のまずさで目的が達成できず、社内からも厳しい評価を受けてしまう。 反面、監査法人自体は、残業抑制などといって、深夜の資料提出や相談をして も、当日では応じてくれず、翌日の対応を強いられる。 最悪の場合、監査法人の対応のまずさで、決算発表が遅らされたこともある。
(3) 国際会計基準(IFRS)を採用しているが 微妙な論点について相談をした ところ、担当会計士では判断できず、監査法人内に聞いて返答してくること が非常に多い。 場合によっては日本の法人内では回答が得られず、ロンドン に意見を聞いた上で見解を述べられることがある: 結論の出し方によっては、業務フローや社内規定、社内の関連各部署への調整 及びシステム変更など、対応が大変な場合があり、時間がかかることも多いの で、もっと早く監査法人内での見解を出せるようにIFRSの専門的知見を高めてほしい。
(4) 不備もないのにサンプリング件数が年々増加しているが、増やされる理由が全く説明されない:きちんとした理由がないと、監査報酬を上げるネタを自ら作って請求している ように感じることになり、監査報酬の交渉の際には、納得できない原因の一つ になっている。
(5) 監査計画の説明が大雑把過ぎる:実際の監査に要した時間が、計画を超えたということで追加請求をされるが、 どの作業が計画を上回ったのかが全くわからない。追加請求の内容がきちんと わかれば納得して支払いには応じるが、説明されないので納得できない。 計画段階では、「四半期に何時間、内部統制で何時間、年次決算で何時間」などといった大雑把なメッシュではなく、「確認状の発送で何時間、差異調整で 何時間」などといった、監査手続き単位のメッシュで提示して欲しい。 そうすれば、差異が発生した件数が想定を超えたから、実績が計画よりも時間 がかかったことがわかる。
以上は、苦情のほんの一部です。 このような状況は、作成者サイドの企業の経理現場に、過度な負担をかけているだけではなく、 監査法人内の監査の質的レベルの向上が望めない状況になっ ていることを裏付けていて、最終的に日本の資本市場の信頼性を高めることが できない原因にもなりかねないということで、大変危惧しております。
国税不服審判所のサイトより引用
税金への不服については、国税不服審判所があります。国税不服審判所は、国税庁の特別の機関として、執行機関である国税局や税務 署から分離された別個の機関として設置されています。 審査請求書が提出されると、国税不服審判所は審査請求人と原処分庁(税務署 長や国税局長など)の双方の主張を聴き、必要があれば自ら調査を行って、公 正な第三者的立場で審理をした上で、裁決を行います。 裁決は、行政部内の最終判断であり、原処分庁は、これに不服があっても訴訟 を提起することはできません。
何が言いたいかと言うと、税金の国税不服審判所にあたる機関が、会計監査制 度にはないということです。この制度的欠陥は、今の経理業務に重大な影響を もたらしているのではないかと考えています。
会計監査人が事実と全く異なる見解を示した時であっても、最終的に監査法人 の見解に合わせなければ監査報告書でOKがもらえず、最終的に監査法人の見 解に基づいて財務諸表を作成せざるを得ない状況に陥っているということです。 これはつまり、財務諸表の作成者が監査法人になってしまっているということ に他なりません。本来の会計監査制度の建付けでは、財務諸表の作成責任は、第一義には企業にあり、 会計監査人はそれを監査して意見を表明する、二義的な責任を負うとい うことになっています。しかし現状では 企業の見解に十分な合理性があったとしても、あるいは監査 法人の判断が間違えていたり、あるいは細かすぎるものであったりしても、 監査法人の見解に従わないと適正意見をもらえないこともままあるようです。
さらに、IFRSの問題はもっと根本的に深刻です。 IFRS関連の対応については、今の日本の監査法人ではとても心細い、あえて 言えば「お粗末」とも言えるレベルです。 その根本原因は、今の日本の公認会計士試験制度にあると考えています。 今の日本の公認会計士試験制度では、IFRSが必須の受験科目にはなっていな いのです。これはつまり、「公認」会計士とは言え、IFRSについてはその経験も知識も評 価されるプロセスが全くないので、「公認できるレベルである」という根拠が 全くないのです。 敢えて言えば、現在IFRSを任意適用している企業の財務諸表に対して作成さ れている監査報告書にサインしている公認会計士でも、「IFRSを理解している ことを公認」されてはいないので、その監査報告書は「無効」だと思います。 監査法人内でIFRSに関する知見が評価されていても、それは「自己評価」で あって、財務省が「公認」したものではありません。 もし監査法人内だけで評価された人が監査報告書にサインしても良いのであれ ば、公認会計士試験制度はいらないと思います。
以上、平たく言えば、今の会計監査の現場は、「健全な状況ではない」ということです。もっと健全な状況にするために何かできないか、今真剣に考えています。 もし何か良いアイデアがあれば、ご意見をいただけるとありがたいです。
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