相次ぐ架空発注事件と経理部門のチェック機能
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コンサルタントの眼
経費精算業務の電子化
昨今、経費精算業務の電子化を検討する企業が増えていますが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行によりテレワークが推進され、経費精算業務の電子化の流れも強力に後押しされています。
経費精算業務は経費を利用するすべての方が携わるため、他の会計領域と比べてとても多くの従業員が関係します。従って経費精算業務を電子化する、既存のシステムを変更する際には多くの従業員にスムーズに新しいシステムに馴染んでいただく必要があります。
今回は、経費精算業務の電子化、およびシステム切替をスムーズ行うためのポイントをご紹介します。
(1)システムの選定
経費精算システムの利用者は老若男女幅広い世代の方が利用し、ITリテラシーも千差万別です。そのため申請画面が直観的に入力できるような分かりやすい画面であることは大きなポイントです。入力画面が分かりづらいと入力内容のミスを誘発し、エンドユーザーからの問い合わせも多く発生します。
(2)業務マニュアルの作成
ほとんどの経費精算システムは製品マニュアルを備えていると思います。弊社が提供している経費精算システム「Ci*X Expense(サイクロスエクスペンス)」も製品マニュアルを用意しています。しかし製品マニュアルとは別に業務運用に特化したマニュアルを作成し、エンドユーザーに展開することにより既存の経費精算業務とのつながりを持たせてシームレスにシステムの切り替えを行うことが可能です。
(3)トライアル期間を設ける
紙の申請で経費精算業務を運用している会社の場合、電子データで申請を行い領収書も電子化を一気に行うのは少々性急すぎると感じる場合があるかもしれません。その際には、実運用を行う前に経費精算システムのエンドユーザーのトライアル期間を設けることや、証憑は電子データと紙とを併用して最初は運用を行うことも検討すると良いでしょう。徐々に新しいシステムにエンドユーザーが慣れ、システムの本番稼働後に現場の混乱が少なくなります。
弊社では、公益社団法人日本文書情報マネジメント協会(JIIMA)の電帳法スキャナソフト法的要件認証制度の認定を受けた、経費精算システム「Ci*X Expense(サイクロス エクスペンス)」をご用意しておりますので、電子帳簿保存法の要件を満たしたシステムとして安心してご利用いただけます。
また製品のコンセプトとして、マニュアルレスな画面による使いやすさの追求、日本企業独自の複雑な日当や宿泊規定への標準設定での対応、グループ会社での利用を意識した設計、「Ci*X Journalizer(サイクロスジャーナライザー)」による周辺システムとのつながりやすさ、等を打ち出している自信をもって提供可能なシステムです。経費精算システムの導入をご検討されている場合には、ぜひご相談ください。
中田雑感
相次ぐ架空発注事件と経理部門のチェック機能
こんにちは、公認会計士の中田です。このコーナーでは毎回、経理・財務にかかわる最近のニュースや記事などから特に気になる話題をピックアップしていきます。よくある、無味乾燥なトピックの紹介ではなく、私見も交えて取り上げていきますので、どうぞご期待ください。 昨年から、架空発注で多額の損害が発生した事件が、立て続けに報道されています。
日本経済新聞で「長期にわたる不正 痛手」という見出しの記事が掲載されました。
抜粋記事が以下です。
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【博報堂DYグループ】の企業で当時の社員らが約3年にわたり架空取引を繰り返していた疑いが浮上した。企業の法令順守やガバナンスが重視される中、架空取引が長い間表面化せず、多額の損害につながるケースが大企業で相次いでいる。
大阪府警は7月、パソコン用記録媒体を架空発注したとして、【NTT西日本】の元課長を背任容疑で逮捕した。研究開発部門の担当課長として2017年8月~19年3月に不正な発注を繰り返したとされ、府警が裏付けたNTT西の損害は約2億1500万円に上った。
【大和ハウス工業】は2月、東北工場(宮城県大崎市)の社員が建設用の鉄骨部材を架空発注していたと発表した。架空発注は13~17年にかけて行われ、総額は2億数千万円に上るとみられるという。
(2020年11月16日付 日本経済新聞 電子版)(【】:筆者)
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この記事の最後に、山口利昭弁護士のコメントとして以下が掲載されています。
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「架空取引を長期間許せば多大な損害が発生するだけでなく、内部統制の機能が疑問視され企業の社会的な信用も損なわれる。周囲の社員が『おかしい』と感じたときに声を上げられる雰囲気が重要で、経営陣には日ごろから不正行為を厳正に処分し、社内へ適切な説明を尽くす姿勢が求められる」
(2020年11月16日付 日本経済新聞 電子版)
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「経営陣が日ごろから不正行為を厳正に処分して、社内へ適切な説明を尽くす姿勢」をしているだけでは、今後もこのような不正事案はなくならないでしょう。ただ重要なポイントは、山口利昭弁護士のコメントにある「内部統制の機能」を中身のある有効な機能にすることです。
不正の発生は、「動機」、「機会」、「正当化」の3つの要素がすべてそろったときに発生すると考えられています。いわゆる「不正のトライアングル」です。
内部統制は、この3つのうち、「機会」を抑える効果があります。
いくら「私腹を肥やしたい」という「動機」があって、「ほかの会社でもやっているんだから自分がやってもいいのだ」と「正当化」しようとしても、不正を起こす「機会」がなければできないのです。
さて、博報堂DYグループの架空発注事案については、続報があります。
日本経済新聞で「経理の甘さ突く 博報堂DY系架空発注、営業優位も背景か」という見出しです。
抜粋記事が以下です。
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中島容疑者らは実際にCM制作を請け負った業務の外注費を経理部門に請求する際、同じ広告主から別の業務を請け負ったかのように装い、会計システムを通じて正規の費用とともに請求していた。経理担当者は警視庁捜査2課の事情聴取に【「請求書も記載内容も形式が整っており、架空とは気づかなかった」】と話したという。
CM1本分の外注費は、博報堂DYMPがテレビ局から仕入れる放映枠の代金や、広告主が同社に支払う制作費の数倍に上ることもあった。請求・支払いに関する同社の管理は、広告主ごとの一定期間の総額を社員からの報告に基づいて整理する方法だった。
捜査関係者は「放映枠の価格や広告主からの受注額を外注費と比較するなど、取引内容を精査する体制が整っていなかった」と指摘する。同社は「取引の管理体制を改善させるため、事件に関係する会計システムを改修した」(広報室)という。
(2021年2月1日付 日本経済新聞 電子版)(【】:筆者)
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営業部門の架空発注なのに、経理部門がやり玉にあげられています。
しかし、今の経理部門の力で「請求書も記載内容も形式が整っている」状態の支払依頼について、「おかしい」と気づいて事実確認をするようなことができているでしょうか。
現在の経理部門は、「間接費削減」や「間接部門の人員削減」の圧力で、現場のマンパワーもノウハウも減る一方で、そこまで手が回らないのではないでしょうか。
そんな状況で、「放映枠の価格や広告主からの受注額を外注費と見比べる作業工数」を確保することは難しいでしょう。
この問題の本質は、経営者の「経理部門軽視」の風潮からも来ているように思えます。
まだ不正が発生したことのない会社において、「いろいろな不正のリスクを網羅的に防ぐしくみを整備して、きちんと運用すること」は、現場メンバーの数も経験も十分でない現実では、とても困難ではないでしょうか。
今の日本企業における内部統制の弱点は、「第2線」を担う経理部門の人材不足です。
形式的チェックだけでなく、実質的チェック、即ち「いろいろな角度で、取引やそのエビデンスの妥当性を確かめるチェック」をも行うことは、「膨大な作業」に追われているだけの経理部門では決してできないでしょう。
しかし、現実は「人材不足」に直面しています。
それでも現状を改善しないと、社内の不正事案が発生すると「経理が杜撰だから」などと言われてしまいます。
したがって、現状の戦力で、「実質的チェック」を充実させていく上では、最新のITの力を頼る他はないでしょう。
逆に、非常に進歩したITを生かさない手はないと思います。
つまり、形式的チェックは、人間ではなくITにやらせて、実質的チェックを人間がどんどん充実させていくのです。
人間でなくてもできる作業は、ことごとくITで対応するのです。
そうすれば、人間は形式的チェック作業から解放されて、実質的チェックを行う余裕が生まれ、その結果、不正を察知して被害を被るリスクは減っていくでしょう。