サステナビリティ情報開示のシステム化【第3回】システムを正しく選ぶための3つの切り口:導入アプローチ編

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はじめに

企業に対するサステナビリティ情報開示の動きが広がっています。非財務情報、すなわち気候変動への対応、サプライチェーン上の人権リスク、人的資本への投資などもまた、企業価値を評価する上では不可欠な要素です。

昨今、法規制に基づく義務化も進む中で、対応すべき制度の全体像はつかんでいても、何から着手すべきか整理できていないケースも少なくありません。本稿はサステナビリティ情報開示のシステム化を3回のシリーズで解説しています。

初回では、開示スケジュールと直ちにシステム選定に着手すべき理由について整理し、第2回はシステム選定における重要な3つの切り口のうち2つ(データ収集と内部統制)を解説しました。

第3回のテーマは、最後の切り口である【3】導入アプローチについてです。要件定義から本番稼働まで、何が成否を分けるかを押さえておけば、プロジェクトを成功に導きやすくなります。

第1回
今すぐシステム選定に着手すべき理由
第2回
システムを正しく選ぶための切り口:データ収集&内部統制編

不確実性の高い領域に適した2つの方法論

サステナビリティ開示領域の特徴は、対応すべき業務の種類・範囲が現在も変化し続けているという点にあります。制度が確定していない中でシステムを設計することになるため、従来の大規模一括型の導入アプローチは必ずしも適していません。この状況に対して有効なのが、段階的アプローチとアジャイルアプローチの組み合わせです。

方法1:段階的アプローチ

段階的アプローチとは、最初から全体を一度に実装しようとするのではなく、まず対処しやすい領域や課題感の大きい領域から着手し、着実に成果を積み上げながら範囲を広げていく考え方です。これをスモールスタート、クイックウィンと呼びます。

初期段階で全体像が見えていなくても前進できること、また早期に一定の成果を出すことでプロジェクト全体の推進力を着実に維持できることが利点です。

例えば、第一ステップとして法制化の動きが先行しデータ収集の型が整いやすい「環境(GHG排出量など)」領域からシステムを導入して運用のベースを確立します。その後、第二ステップとして「人的資本」や「多様性」など、自社にとって重要度が増している他の非財務領域へと対象を順次拡大し、確実なプロジェクト推進を図っていくアプローチが考えられます。

方法2:アジャイルアプローチ

アジャイルアプローチは段階的アプローチとセットになる考え方で、個々の導入を進めながら並行して、全体構想とゴールを継続的に見直していくものです。外部環境の変化、すなわち開示ルールの追加や改定に対して柔軟に対応できる点が、特に有効です。例えば、Scope1・2の対応を進める中でScope3の重要性が高いと判断される場合には、優先的に対応範囲を拡大することや、人的資本においてもデータ収集の実態に応じて収集対象や方法を柔軟に変更していくことが考えられます。この方法論を採用するには、選定するシステムそのものが拡張性を備えていることが欠かせません。段階的に積み上げていける仕組みかどうかは、システム選定段階から意識しておくべき観点です。

プロジェクトを成功に導く鍵①:プロジェクト体制の整備

導入プロジェクトを円滑に進めるための要件は多岐にわたりますが、経験上、特に重要な要件として、①プロジェクト体制の整備および②重要方針の早期確定の2点が挙げられます。①のプロジェクト体制の整備においては、以下の4つの要素が特に重要です。

推進力の確保

導入プロジェクトのステアリングコミッティに経営層を参画させることで、部門間の意思疎通が円滑になり、プロジェクトで決定した内容の実効性が担保されます。どのようなプロジェクトにおいても、経営層のコミットメントがあることによって、現場の動き方は大きく変わります。

関連部署の協力

サステナビリティ開示は、経理・財務部門のみならず、環境、人事、調達、法務など、広範にわたる部署が関与します。早い段階から関連部署と連携し、対応方針を共有しておくことが、プロジェクト後半での混乱防止につながります。有価証券報告書の開示対応をきっかけにサステナ推進部と経理部が情報交換を始め、相互理解が深まったことでその後のプロジェクトがスムーズに進んだという事例は、弊社の支援経験でも多く見られます。

十分なリソース計画

要件定義やユーザー受入テストのフェーズでは、発注側の企業も多くの工数と人員を投入する必要があります。特定のメンバーに負荷が集中したり、他業務の影響でプロジェクトに集中できない状態が続いたりすることは、プロジェクト継続の大きなリスクになります。問題が顕在化してからの対処では手遅れになりかねないため、事前に十分なリソースを確保しておくことが重要です。

専門家の知見の活用

ベンダー側に提示する業務要件に曖昧さや網羅性の不足があると、プロジェクト開始後に認識の齟齬が生まれ、手戻りが頻発する原因となります。システム選定に先立って、サステナビリティ開示に知見を持つ外部の専門家のアドバイスを活用することで、要件を明確化しておくことが効果的です。

プロジェクトを成功に導く鍵②:重要方針の早期確定

重要方針を早期に確定することもプロジェクトの成否を握る鍵となります。こちらも4つの論点において、早期から答えを出しておくことが求められます。

アウトプットの設計

システムから出力される帳票類について、監査人を含む関連当事者に事前ヒアリングし、具体的なレイアウトや出力形式をリストアップしておきます。プロジェクト終盤にアウトプットの仕様変更が発生すると、入力レイアウトから過去データの移行まで広範な影響が及ぶため、早期の具体化が不可欠です。

データ収集ルートを確定

親会社と子会社の間に地域統括会社などが存在する場合、当該組織を経由させるかどうかによってデータの承認フローが変わります。入力責任の所在を明確にするためにも、収集ルートは早めに確定させておく必要があります。

データ粒度の決定

データの活用目的と収集コストを照らし合わせ、会社単位で収集するのか部門・拠点単位まで細分化するのかを決めておきます。プロジェクトの進行中に粒度の変更が生じると、広範な設計の見直しが必要になるため、できる限り早い段階での合意形成が求められます。

ローカライズの最小化

グループ各社の事情に合わせた入力画面の作り込みを過度に行うと、その後のメンテナンスコストが増大します。要件定義段階でパターンを洗い出し、ローカライズを最小限に抑える工夫が長期的な運用コストの削減につながります。

活用深化、開示対応を超えた先にある可能性

短期的には法規制への対応が最優先ですが、中長期的な視点で考えると、システムを構築することで大きなメリットが得られます。それは、開示のために収集したサステナビリティデータが、将来的に経営戦略そのものに活用できる資産となるという点です。  

財務+サステナの視点

事業ポートフォリオの評価にサステナビリティ情報を組み合わせることで、財務的な収益性だけでなくGHG排出量などの非財務情報を加味した「財務+サステナ」視点での事業別管理が可能になります。売上規模は大きくても資本収益性が低くGHG排出量が多い事業と、規模は小さくても資本収益性が高くGHG排出量の少ない事業を、同一の軸で比較・評価できるようになることは、経営判断の質を高めるために大きな意味を持ちます。

開示対象のテーマは今後も広がる

SSBJにおいては気候変動の次に生物多様性、水資源、人権、人的資本といった領域が順次加わることが想定されています。また、欧州のCSRDに基づく対応やCSDDD(企業サステナビリティ・デューディリジェンス指令)、炭素国境調整メカニズム(CBAM)など、規制の強化も継続的に進行しています。こうした動きに対し個別に対処するのではなく、拡張性を持つ統合的なシステム基盤を早期に整備しておくことが、対応コストを抑えながら開示の質を高めるための合理的な選択と言えます。開示対応をコストとして捉えるのではなく、経営管理ツールとしての活用を見据えた投資として位置づけることが、中長期的な観点から重要です。

本稿のまとめ

サステナビリティ情報開示のシステム化に向けた検討ポイントを、スケジュール・システム選定・導入アプローチの3つの観点から整理してきました。サステナビリティの制度整備が進む中で、自社にとっての最適解を自社のペースで設計するためには、早期のシステム化検討着手とあわせて、要件の具体化、適切なプロジェクト体制の組成が必要不可欠です。サステナビリティ開示への対応は、単なる法規制への準拠や義務的なコストではありません。整備したシステム基盤を「経営管理ツール」として捉え直し、財務情報と非財務情報を統合した高度な意思決定へ活かしていくための、未来に向けた前向きな投資と言えます。

第1回
今すぐシステム選定に着手すべき理由
第3回
システムを正しく選ぶための切り口:導入アプローチ編

執筆者

株式会社電通総研 エンタープライズ会計ソリューション本部 第1ユニット
連結会計コンサルティング3部 部長 土本 勇介


STRAVISについて

電通総研の提供する「STRAVIS」は、財務データとサステナビリティデータを一つの基盤で管理できる統合システムです。これまでに1,000グループを超える企業への導入実績を有し、連結決算領域で培ったデータ収集、承認ワークフロー、内部統制、グループ会社管理の知見を蓄積しています。

近年重要性が高まるサステナビリティ開示においても、各部門・グループ会社からのデータ収集、進捗管理、根拠資料の管理、承認履歴の可視化など、開示と保証を見据えた業務基盤の構築を支援します。単なるシステム提供にとどまらず、構想策定から運用定着までを一貫して支援。各フェーズで求められる実務や課題を熟知しているからこそ、企業ごとの状況に最適化したシステム化対応が可能となり、確実かつ効率的な開示体制の構築を実現します。 STRAVISは、サステナビリティ開示の高度化を支えるパートナーとして、企業の持続的な価値創造を力強くサポートします。

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